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大阪高等裁判所 昭和63年(行コ)29号 判決 1989年2月22日

控訴人

沖幸逸

被控訴人

兵庫税務署長

倉元功

右指定代理人

石田浩二

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2(主位的請求)

被控訴人が昭和五九年六月三〇日付をもってした訴外神戸枝肉荷受株式会社に対する法人税更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分がいずれも無効であることを確認する。

(予備的請求)

前記記載の各処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第二  当事者双方の主張

次のとおり訂正し、また、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決二枚目裏末行の「所得金額」とあるのを、「欠損金額」と改める。

2  同三枚目表初行の「納付すべき」とあるのを、「控除すべき所得」と改める。

3  同一〇枚目表五行目の「訴外会社が」から同七行目の「争わないが」までを、「訴外会社が昭和五九年一月二三日に清算を結了したものとして、同年六月二一日にその登記を経由したことは認めるが」と改める。

4  同表一一行目の「明らかに争わないが」とあるのを、「認めるが」と改める。

5  同一一枚目表五行目の「会社は、」から同八行目の「いうべきであって、」までを、「清算の結了により株式会社の法人格が消滅したというためには、商法四三〇条一項、一二四条所定の清算事務が終了しただけでは足りず、清算人が決算報告書を作成してこれを株主総会に提出し、その承認を得ることを要するものであり(最高裁昭和五九年二月二四日第二小法廷判決・刑集三八巻四号一二八七頁参照)、清算事務が終了しただけでは清算が結了しないのであるから、仮に残余財産を株主に分配し、全株主にこれを引渡し終った時に清算事務が終了すると仮定しても、それだけでは、清算が終了し、株式会社の法人格が消滅するものではない。逆に、商法四三〇条一項、一三四条は、この株主総会の承認後、一定の期間内に清算結了登記をすることを義務づけているのであり、この登記を怠れば過料に処せられるのであるから(商法四九八条一項一号)、清算人は、右承認後、必ずこの登記をしなければならず、また、この承認のない限りは清算結了登記をすることはできないから、右株主総会の承認決議によって清算は終了し、株式会社の法人格は消滅するというべきであって、」と改める。

二  当事者双方の主張の附加

(控訴人)

1 代表清算人でなく、また、残余財産の現実の引渡しをしなかった清算人でも、残余財産の分配等が清算人会の決議に基づくときは、その決議に賛成した清算人は、右分配等をしたものとみなし、また、右決議の議事録に異議をとどめなかった清算人は、その決議に賛成したものと推定される(国税通則法基本通達三四一五)。

控訴人は、昭和五九年一月二三日にされた残余財産の分配の承認決議において、その議事録に記名捺印して異議をとどめていないのであるから、右通達により、決議に賛成したものとみなされ、あるいは推定されて、第二次納税義務者としての納税告知を受けるおそれのあるものというべく、したがって、行政事件訴訟法九条にいう「処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者」に該当する。

2 法人税の更正処分については、当該法人の本店所在地に宛て、納税者である右法人に対して更正処分の通知書を送達すべきであって、代表者である個人に宛ててその住所地に送達をしたところで、このような送達が有効とはいえない。

本件更正処分等の送達は、訴外会社のもと代表清算人であった山端喜代市の住所に宛てて、同人に対し、書留郵便によってされたものに過ぎず、これによって訴外会社に対する本件更正処分等の送達があったとはいえない。

したがって、本件更正処分等は、その内容の瑕疵を問うまでもなく、その通知を欠くものとして手続きの瑕疵により無効である。

(被控訴人)

1 本件補償金八三〇〇万の金額が訴外会社に対して支払われたものであることはさきに主張したとおりであり、したがって、訴外会社の本件事業年度における所得金額の算定の内訳は別表(一)記載のとおりとなる。右内訳金額のうち補償金収入計上漏れ四五〇〇万円は、訴外会社が神戸市から支払われた補償金の一部(四五〇〇万円)を預り金として経理していたので、被控訴人は、これを当期の所得金額に加算したものであり、前期から繰り越した欠損金額七五二万一二九三円は、訴外会社の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度に生じた欠損金額を、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入したものである(法人税法五七条)。

また、法人税法二条一〇号に規定する同族会社は、同法六七条の規定により、各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その超える部分の金額に一定の割合を乗じて計算した金額を各事業年度の所得金額に対する法人税の額に加算することとされている。

訴外会社は右同族会社に該当するので、被控訴人は、本件更正処分後の留保所得金額を基礎として法人税法六七条の規定に従って留保金額に対する税額を算定したところ、別表(二)記載のとおりとなる。

被控訴人は、訴外会社が提出した確定申告書記載の所得金額等が被控訴人の調査したところと異なっていたので、さきに主張したとおり本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたが、その計算の根拠は、別表(三)記載のとおりである。

2 本件予備的請求について、被控訴人の本案前の抗弁が認められないとすれば、被控訴人は、その実体審理につき原審に差戻しを求めることなく、当審において実体審理されることに同意する。

第三  証拠<省略>

理由

一訴外会社が、枝肉の荷受け及び売買の斡旋を業とする株式会社であり、昭和五八年五月三一日に株主総会で解散決議をし、同年四月一日から五月三一日までの事業年度(本件事業年度)の法人税につき、法定の申告期限内である同年七月二七日に、欠損金額を五五一万八一一五円、控除すべき所得税額を五万七五〇〇円、翌期に繰り越す欠損金を一三〇三万九四〇八円とする確定申告をしたこと、右申告に対し、被控訴人が、昭和五九年六月三〇日付で、所得金額を三一九六万〇五九二円、納付すべき税額を一四一八万四七〇〇円とする法人税更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税額を七〇万九〇〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分(右両処分を合わせて本件課税処分という。)をしたこと、本件課税処分に対し、訴外会社が、法定の期限内である昭和五九年七月二八日に被控訴人に対する異議申立をし、被控訴人は、同年一一月六日付で右異議申立をいずれも棄却するとの決定をしたこと、右異議棄却決定に対し、訴外会社が、法定の期限内である昭和五九年一一月二〇日に国税不服審判所長に対して審査請求をし、同所長は、昭和六一年四月七日付で右審査請求を棄却するとの裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二主位的請求

1  訴えの利益(原告適格)

行政事件訴訟法三条所定の無効等確認訴訟の訴えの利益(広義)は、原告適格の面においては取消訴訟の場合と同じく、当該処分もしくは裁決の存否又は効力の有無の確認を求めるにつき、法律上保護された利益を有する者に限って認められるものというべく、右法律上保護された利益とは、当該処分等が違反するとされている実定法規が原告の個人的利益を保護する趣旨で行政権の行使を制約している場合をいい、これとは異なり、他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使を規制している結果としてたまたま原告が一定の利益を受ける場合においては、単なる法の反射的利益あるいは事実上の利益の侵害があるに過ぎないとして無効等確認訴訟の原告適格を認めるに由ないものと解するのが相当である(最高裁昭和五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁参照)。

また、行政事件訴訟法三六条によれば、無効等確認訴訟については、さらにその訴えの具体的利益と必要性が、一つには、係争処分の続行処分によって原告に損害が生じる危険が切迫しているために、これを阻止する予防的利益が肯定される場合と、第二には、原告の利益が、処分の無効を前提とした現在の権利関係に関する訴訟に還元して保護を求めるには適さない場合との、二つの場合に制限されるとともに、右続行処分により損害を受けるおそれがある場合には、現在の法律関係に関する訴えを提起することが可能であるというだけでは無効等確認の訴えの提起が否定されるものではないというべきである(最高裁昭和五一年四月二七日第三小法廷判決・民集三〇巻三号三八四頁参照)。

いま、これを本件についてみるのに、前記争いのない事実に<証拠>を総合すると、訴外会社は、昭和五八年五月三〇日に開催された第二一回定時株主総会において、翌五月三一日付をもって解散するとの特別決議をするとともに、山端喜代市、中浜博、貞松秀雄及び控訴人の四名を清算人として選任し、同人らは即日就任することを承諾し、その後、清算人会において山端喜代市が代表清算人に選任されたこと、山端は、同年六月二三、二五、二八日の三回にわたって官報により、右解散及び同年八月二三日を期限とする債権申出催告の公告をし、同年六月二五日開催の臨時株主総会において、本件事業年度の決算報告書を提出してその承認決議を得たこと、また、同年一二月七日及び八日に、株主に対する残余財産の第一次分配金として一株につき一〇〇円の割合による合計八六〇万二〇〇〇円を支払い、さらに、昭和五九年一月二三日に同第二次分配金として一株につき二一円九二銭九厘の割合による合計一八八万六三七〇円を支払い、右一月二三日開催の清算結了株主総会において、昭和五九年六月一日から同年一二月三一日までの決算報告書を提出して以上二回にわたる残余財産の分配及びこれによって訴外会社の残余財産が零となったことを含めその承認決議を得たこと、控訴人は、右残余財産の分配につき清算人会においてこれに賛成していること、訴外会社は、本件事業年度の法人税につき、法定の申告期限内である昭和五八年七月二七日に、別表(四)記載のとおり確定申告をしたところ、被控訴人は、右申告に対し、昭和五九年六月三〇日付で、別表(三)記載のとおりの本件課税処分をしたことがそれぞれ認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、国税徴収法三四条は、法人が解散した場合において、その法人が結果的に納付しなければならない国税を納付しないで、清算人が残余財産の分配をしたため、その法人に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき税額に不足すると認められるときは、分配をした清算人は、分配に係る財産の価額を限度として主たる納税者の滞納国税の全額について第二次納税義務を負うと定めているところ、右分配が清算人会の決議に基づいて行われたときは、決議に賛成した清算人はその分配をしたものとみなすのが相当である。

このような国税徴収法の定める第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は決定もしくは更正等(以下、「主たる課税処分等」という。)により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して、納税告知により補充的に課される義務であって、その納付告知は、形式的には独立の課税処分ではあるけれども、実質的には、右第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせたものにほかならず、この意味において、第二次納税義務の納付告知は、主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、右納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場にあるものというべきである。したがって、主たる課税処分等が不存在又は無効でないかぎり、主たる納税義務の確定手続における所得誤認等の瑕疵は、第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼすものではなく、第二次納税義務者は、右納付告知の取消訴訟においては、右の確定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことができない(違法性の承継の否定)ものといわなければならない(最高裁昭和五〇年八月二七日第二小法廷判決・民集二九巻七号一二二六頁参照)。

そして、右説示のとおりの主たる課税処分等と第二次納税義務の告知処分との関係及びその間に違法性の承継が認められないことなどに照らすと、第二次納税義務者は、主たる課税処分等そのものを争うについて、前記説示にかかる法律上の利益を有する者にあたるとともに、行政事件訴訟法三六条所定の係争処分の後続処分によって自己に損害が生じる危険が切迫しているために、これを阻止する予防的利益を有すると認められる場合に該当するものというべく、したがって、第二次納税義務者の救済のために、主たる課税処分等そのものに対して第二次納税義務者が無効確認訴訟を提起することができるものと解するのが相当であり、この理は、第二次納税義務を課されるおそれがある者が現実に納付告知を受けるまでの間においても、これを別異に解する要をみないものというべきである。

本件において、前記認定にかかる事実によれば、控訴人は、国税徴収法三四条により、本来の納税義務者である訴外会社に対する本件課税処分に係る税額の徴収について第二次納税義務を課されるおそれがある者であることが明かであり、したがって、以上説示したところにより、本件課税処分そのものにつき無効確認訴訟を提起することができるというべきである。

右説示に反する被控訴人の本案前の主張は理由がなく、これを採用することができない。

2  本件課税処分の無効事由

(一)  控訴人は、本件課税処分が訴外会社の法人格消滅後に行われたものであるから、その内容において重大かつ明白な瑕疵があり無効であると主張する。

しかしながら、株式会社は、その解散決議によって直ちに法人格を失って消滅するものでないことはもとより、清算人が商法四二七条の定めるところに従い清算事務が終了したとして決算報告書を作成し、これを株主総会に提出してその承認決議を得あるいは清算結了の登記を経由しても、その清算が結了するまでは、会社は、清算中の法人として清算の目的の範囲内においてはなお存続し、その法人格は消滅しないものというべきである。

控訴人引用の判例は所論の点についての判断を説示したものとはいえず、控訴人の法人格消滅の時期に関する法律上の主張は、独自の見解をいうものに過ぎないから採用することができない。

すなわち、清算中の株式会社は、会社の全資産を処分するとともに全ての負債を支払い、残余財産があるときはこれを株主に分配し終った時に清算が結了し、その法人格が消滅するものというべきところ、右負債の中に株式会社に課されるべき国税又は納付すべき国税債務が含まれることはいうまでもないから、会社が右国税を完納しないのに株主総会による前記承認決議があり、清算結了の登記が経由されても、会社は、右清算のために必要な範囲においてなお存続し、右課されるべき国税又は納付すべき国税もまた消滅しないというべきである。

控訴人は、前記認定のとおり、訴外会社が本件事業年度の法人税額が零であるとの確定申告をし、これに対し、被控訴人は、その後、訴外会社の株主総会における前記承認決議あるいは清算結了の登記がされるまでに本件課税処分をしなかったから、訴外会社の本件事業年度の法人税額は、その確定申告により零に確定したものというべきであると主張するものの如くであるが、申告納税方式を採る法人税は、納付すべき税額が納税者のする申告によって確定することを原則とするけれども、その申告のない場合又はその申告に係る税額の計算が法人税に関する法律に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合には、税務署長等の処分(更正、決定、再更正)によって確定するのであって(国税通則法一六条)、前記認定事実によれば、訴外会社の納付すべき本件事業年度に係る法人税は、本件更正処分がされたことにより、訴外会社の確定申告によって税額零に確定したものとは断定し得ないことになったものというべく、したがって、控訴人のこの点に関する主張も理由がない。なお、会社債権者に対する催告の規定(商法四二一条)は、国税債権には適用がないものと解するのが相当である。

以上のとおり、本件更正処分がされた当時において、訴外会社の納付すべき本件事業年度に係る法人税が存在せず、したがって、また、訴外会社の清算が結了し、その法人格が消滅していたとの控訴人主張事実を認めるに足りる証拠はなく、右主張事実が存することを前提として、本件課税処分にはすでに消滅した法人に対してされた内容上の瑕疵があるとの控訴人主張もまた理由がないことに帰し、採用することができない。

(二)  控訴人は、本件課税処分には適法な送達がされていない手続上の瑕疵があり無効であると主張する。

しかしながら、山端喜代市が訴外会社の代表清算人に選任されたことは前記認定のとおりであるところ、成立に争いのない甲第三八号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件課税処分は、その名宛人である訴外会社の代表清算人たる同人に対しその住所に送達されていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件課税処分はその名宛人である訴外会社に対して適法に送達されていることが明かであって、控訴人の主張は理由がなく、採用することができない。

控訴人の主張は、本件課税処分当時すでに訴外会社の法人格が消滅していたことを前提に山端喜代市の代表権が消滅していたことに基づくとみる余地がないではないが、右前提が肯認できないことは前記説示のとおりである。

三予備的請求

1  原告適格及び裁決前置

行政事件訴訟法九条所定の行政処分等の取消訴訟において原告適格を有する者は、当該処分もしくは裁決の取消を求めるにつき、法律上保護された利益を有する者に限られるというべく、また、右法律上保護された利益とは、当該処分等が違反するとされている実定法規が原告の個人的利益を保護する趣旨で行政権の行使を制約している場合をいい、これとは異なり、他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使を規制している結果として、たまたま原告が一定の利益を受ける場合においては、単なる法の反射的利益あるいは事実上の利益の侵害があるに過ぎないとして原告適格を認めるに由ないものと解するのが相当である(前掲最高裁昭和五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁参照)。

本件につき、訴外会社は、昭和五八年五月三〇日に開催された第二一回定時株主総会において、翌五月三一日付をもって解散するとの特別決議をするとともに、山端喜代市、中浜博、貞松秀雄及び控訴人の四名を清算人として選任し、同人らは即日就任を承諾し、その後、清算人会において山端喜代市が代表清算人に選任されたこと、山端は、同年六月二三、二五、二八日の三回にわたって官報により、右解散及び同年八月二三日を期限とする債権申出催告の公告をし、同年六月二五日開催の臨時株主総会において、本件事業年度の決算報告書を提出してその承認決議を得たこと、また、同年一二月七日及び八日に、株主に対する残余財産の第一次分配金として一株につき一〇〇円の割合による合計八六〇万二〇〇〇円を、さらに、昭和五九年一月二三日に同第二次分配金として一株につき二一円九二銭九厘の割合による合計一八八万六三七〇円を各支払い、右一月二三日開催の清算結了のための株主総会において、昭和五九年六月一日から同年一二月三一日までの決算報告書を提出して、以上二回にわたる残余財産の分配及びこれによって訴外会社の残余財産が零となったことを含めその承認決議を得たこと、控訴人は、右残余財産の分配につき清算人会においてこれに賛成していること、訴外会社は、本件事業年度の法人税につき、法定の申告期限内である昭和五八年七月二七日に、別表(四)記載のとおり確定申告をしたところ、被控訴人が、右申告に対し、昭和五九年六月三〇日付で、別表(三)記載のとおりの本件課税処分をしたことがそれぞれ認められることは、前記認定のとおりである。

また、国税徴収法三四条は、法人が解散した場合において、その法人が結果的に納付しなければならない国税を納付しないで、清算人が残余財産の分配をしたため、その法人に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき税額に不足すると認められるときは、右分配をした清算人は、分配にかかる財産の価額を限度として主たる納税者の滞納国税の全額につき第二次納税義務を負うと定めるところ、右分配が清算人会の決議に基づいて行われたときは、決議に賛成した清算人はその分配をしたものとみなすのが相当であること、このような国税徴収法の定める第二次納税義務は、主たる納税義務が申告又は主たる課税処分等により具体的に確定したことを前提として、その確定した税額につき本来の納税義務者の財産に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、租税徴収の確保を図るため、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して納付告知により補充的に課される義務であって、その納付告知は、形式的には独立の課税処分ではあるけれども、実質的には、右第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせたものにほかならず、この意味において、第二次納税義務の納付告知は、主たる納税義務の徴収手続上の一処分としての性格を有し、右納付告知を受けた第二次納税義務者は、あたかも主たる納税義務について徴収処分を受けた本来の納税義務者と同様の立場にあるものというべきこと、したがって、主たる課税処分等が不存在又は無効でないかぎり、主たる納税義務の確定手続における所得誤認等の瑕疵は、第二次納税義務の納付告知の効力に影響を及ぼすものではなく、第二次納税義務者は、右納付告知の取消訴訟においては、右の確定した主たる納税義務の存否又は数額を争うことができない(違法性の承継の否定)ものといわなければならないこと、そして、右説示のとおりの主たる課税処分等と第二次納税義務の告知処分との関係及びその間に違法性の承継が認められないことなどに照らすと、第二次納税義務者は、主たる課税処分等そのものの取消を求めるについて、前記説示にかかる法律上の利益を有する者にあたるものというべく、したがって、第二次納税義務者の救済のために、主たる課税処分等そのものに対して第二次納税義務者が取消訴訟を提起することができるものと解するのが相当であり、この理は、第二次納税義務を課されるおそれがある者が現実に納付告知を受けるまでの間においても、これを別異に解する要をみないものというべきことは、前記無効等確認訴訟について説示したところと同様である。

さらに、第二次納税義務者が右取消訴訟を提起する場合の不服申立ないし出訴期間の起算点については、主たる課税処分に対する時機に遅れた取消訴訟の提起を許すことが、徴税の安定と能率を害するおそれがあることを考慮すると、主たる課税処分が主たる納税義務者に告知された時をもって基準とするのが相当であり、また、右主たる課税処分につき行政事件訴訟法八条一項ただし書所定の、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消の訴えを提起することができない旨の定め(裁決前置の定め)があるときにおいても、右裁決前置が要求されるのは、行政処分に対する司法審査の前に、当該処分の当否につき、一応行政庁に反省の機会を与え、その自主的解決を期待するところにあることからすれば、主たる納税義務者又は第二次納税義務者のいずれかによって審査請求・裁決(異議申立・決定等を含む。)が経由されることをもって訴訟要件としての裁決前置は充たされるものというべきである。

本件における前記認定にかかる事実によれば、控訴人は、国税徴収法三四条により、本来の納税義務者である訴外会社に対する本件課税処分にかかる税額の徴収について第二次納税義務を課されるおそれがある者であることが明かであることは前記無効等確認訴訟の場合について説示したとおりであり、したがって、以上説示したところにより、控訴人は、本件課税処分そのものにつき取消訴訟を提起することができるものと解するのが相当である。

また、国税通則法七五条、一一五条一項によれば、本件課税処分の取消訴訟を提起するには異議申立に対する決定及び審査請求に対する裁決を経由することを要するところ、訴外会社が各法定の期間内に本件課税処分に対する異議申立・決定及び右決定に対する審査請求・裁決を経由したことは前記認定のとおりであり、第二次納税義務者である控訴人が本件課税処分の取消訴訟を提起するについての裁決前置がこれをもって足りることは前記説示のとおりである。

以上のとおりであって、控訴人の本件予備的請求に係る訴えは適法であり、被控訴人の本案前の主張はいずれも理由がなく、これを採用することができない。

2  本件課税処分の適法性

(一)  前記説示のとおり、本件予備的請求に係る訴えは適法であり、これを不適法として訴えの却下した原判決は相当でないから、民訴法三八八条の規定の趣旨に照らし、特段の事情がない限り、これを取消して事件を原審に差し戻すべきものであり、当裁判所自ら請求の当否を審理し、実体判決をすることは許されないというべきである。

ところで、控訴人の本件控訴の趣旨のうち予備的請求に係る部分は、原判決を取り消して請求認容の実体判決を求めるというものであり、また、被控訴人は、控訴人の本件予備的請求に係る訴えが適法と認められるときは、事件を原審に差し戻すことなく当審において実体審理されることにつき合意している。

思うに、当事者に保証された審級の利益自体は私益的なものであるから、当事者の任意の放棄を認めることに支障はなく、したがって、訴えを却下した第一審判決が不相当である場合にあっても、当事者が合意する限り、その控訴審においてこれを取り消し実体判断をすることも、必ずしも民訴法三八八条の趣旨に反するとはいえない。殊に、本件においては、原審において、実体に関する多数の書証が提出され、これについて証拠調がなされていることは本件記録上明らかであるから、当審で実体判断することも、許されて然るべきものと解するのが相当である。

(二)  そこで案ずるに、これまでに認定した事実に<証拠>を総合すると次のとおり認められる。

(1) 訴外会社は、昭和三七年五月に設立された枝肉の荷受け及び売買の斡旋を業とする株式会社であり、神戸市が昭和四〇年五月に開設した神戸市中央卸売市場食肉市場(現西部市場)において神戸市から事務室を借り受け、枝肉の卸売業を営んでいたが、その後、神戸市は、同市場における食肉の卸売業者の数を一社と定め、これに伴い既存の卸売業者を統合すべく神戸中央蓄産荷受株式会社が設立され、同社が昭和四一年一一月、卸売市場一五条一項による農林水産大臣の営業許可を受け、同市場における食肉の卸売業務を行ってきた。

訴外会社は、神戸市の右措置を不満として、統合の呼掛けに応じようとせず、同市場における営業の継続を認めることを同市に要望し、これに対して神戸市は、訴外会社の営業廃止と市場からの立退きを迫り、両者は、折衝を重ねたが合意に至らず、訴外会社は、昭和五七年六月二日、神戸市を相手方として神戸簡易裁判所に対し調停の申立(同裁判所昭和五七年(ノ)第一三五号)をした。

(2) 右調停においては、神戸市の代理人弁護士奥村孝と訴外会社の代理人弁護士貞松秀雄との間で折衝が続けられた結果、昭和五七年八月一九日の期日に、訴外会社は、調停成立後六カ月以内に営業を廃止して前記市場内の事務室を明け渡すこと、神戸市は、訴外会社に補償金として八三〇〇万円を支払うことを骨子とする合意が成立するめどがつき、神戸市議会の承認決議を経て、同年一一月二日の第六回調停期日に、①訴外会社は、昭和五八年五月一日限り前記市場における一切の業務を廃止して使用している事務室を神戸市に対して明け渡す、②訴外会社が業務を廃止し、事務室を明け渡した日から一カ月以内に、神戸市は、訴外会社に対し、その業務廃止の補償金として八三〇〇万円を支払うとの調停(本件調停)が成立した。

(3) 神戸市は、昭和五八年五月七日、本件調停に基づく補償金八三〇〇万円を訴外会社に対して支払った。

(4) 訴外会社は、昭和五八年七月二七日、本件事業年度における所得金額を別表(四)記載のとおり欠損金五五一万八一一五円として確定申告したが、右算定は、補償金八三〇〇万のうち四五〇〇万円につき、これが株主に対して支払われた補償金を預かったものに過ぎないとの訴外会社の主張に基づくものであって、前記のとおり訴外会社に対する補償金であると認められる右八三〇〇万円の金額を所得に算入すると、訴外会社の本件事業年度における所得金額、これに対する法人税額、差引納付すべき税額、国税通則法六五条一項の規定による過少申告加算税等は、別表(三)記載のとおりとなる。

以上のとおり認められ、この認定とあい容れない前記控訴本人の供述の一部は直ちに採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

もっとも、<証拠>によれば、(1)前記昭和五七年八月一九日の調停期日において、本件調停のような内容の合意が成立するめどがついた後、本件調停成立の同年一一月二日までの間に、訴外会社代理人である貞松弁護士及び神戸市の代理人である奥村弁護士作成に係る覚書(甲第一一号証)が交わされているところ、右覚書には、神戸市が訴外会社に支払う八三〇〇万円のうち株式相当額(四五〇〇万円)は、訴外会社が前記市場における業務を廃止のうえ、解散するにあたり、訴外会社株主に対する営業上の損失並びに出資金の補償として、株主に支払われることを含むものであるとの記載があること、(2)訴外会社の決算報告書には、右四五〇〇万円は、神戸市の会社株主に対する補償金の預り金として会社が受け取ったものとして、これ以外の三八〇〇万円は、訴外会社に対する補償金として支払いを受けたものとしてそれぞれ記載されていること、(3)株主が昭和五八年一二月七日、八日の両日にわたり第一次分配金として一株六〇〇円の割合で訴外会社から支払いを受けた金員のうち一株五〇〇円の割合による部分は他と区別されており、決算報告書にも分配金として計上されていないことがそれぞれ認められる。

しかしながら、神戸市が訴外会社の株主に対して補償金を支払うべき合理的な理由は本件においてこれを見出しがたいのみならず、前掲甲第一〇号証、乙第六号証によれば、前記神戸市議会の本件調停についての承認決議及びこれに基づく本件調停条項のいずれにおいても、右四五〇〇万円が会社株主に支払われるべき補償金であるなどのその性質、根拠等に関する特段の留保は、明示あるいは黙示のいずれを問わず附されていないことが認められ、右認定事実に前掲乙第五号証によって認められる前記覚書作成に至る経緯などの事情を併せ勘案すると、右覚書の内容は、せいぜい調停成立までの過程において、税金対策のため訴外会社側が神戸市に希望したところを文書にしたものに過ぎないのではないかとの疑いを払拭することができないし、前記(1)ないし(3)の事実も未だ前記八三〇〇万円が調停条項記載のとおり全額につき訴外会社自体に対する補償金として支払われたものであるとの認定を左右するに足りないというべきである。

されば、本件課税処分は適法であって、その取消を求める控訴人の予備的請求も理由がなく棄却を免れない。

四以上の次第で、原判決中、控訴人の主位的請求を棄却した部分は相当であって、右部分に関する本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、また、控訴人の予備的請求に係る訴えを却下した部分は、相当でないからこれを取り消したうえ、前記説示のとおり右請求を棄却すべきところであるが、本件においては、原判決の右部分について控訴人のみが控訴し、被控訴人は控訴していないから、いわゆる不利益変更禁止の法理(民訴法三八五条参照)により、本件控訴を棄却するにとどめざるをえないというべきである(最高裁昭和三〇年四月一二日第三小法廷判決・民集九巻四号四八八頁、同六一年七月一〇日第一小法廷判決・判例タイムズ六二三号七七頁各参照)。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官東條敬 裁判官横山秀憲)

別紙

別表(一)

項目

金額(△はマイナス)

申告所得金額(加算項目)

△五五一万八一一五円

補償金収入計上漏れ(減算項目)

四五〇〇万円

前期からの繰越欠損金額

七五二万一二九三円

所得金額(①+②~③)

三一九六万〇五九二円

別紙

別表(二)

項目

金額(△はマイナス)

当期留保金額

二三四七万三一五五円

留保控除額

一五六六万二五四七円

差引課税留保金額

七八一万円

留保金額に対する税額

九二万一五〇〇円

別紙

別表(三)

項目

金額(△はマイナス)

所得金額

三一九六万〇五九二円

①に対する法人税額

一三二六万三二四〇円

課税留保所得金額

七八一万円

③に対する法人税額

九二万一五〇〇円

法人税額計(②+④)

一四一八万四七四〇円

控除所得税額

五万七五〇〇円

差引所得に対する法人税額(⑤~⑥)

一四一二万七二〇〇円

既に納付の確定した本税額

△五万七五〇〇円

差引納付すべき税額(⑦~⑧)

一四一八万四七〇〇円

過少申告加算税

七〇万九〇〇〇円

別紙

別表(一)

項目

金額(△はマイナス)

所得金額

△五五一万八一一五円

①に対する法人税額

課税留保所得金額

③に対する法人税額

法人税額計(②+④)

控除所得税額

五万七五〇〇円

差引確定法人税額(⑤~⑥)

△五万七五〇〇円

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